フィルムの値上げに思うこととお願い
今週、Kodakフィルムの販売価格改定が発表されました。その件についての情報と個人的に思ったことなどを文章にまとめました。長文になってしまいましたが、お時間があるときにでも読んでいただけると嬉しいです…!
私自身、フィルムで写真を撮り始めてもう13年くらいになりますが、メーカー各社の値上げのニュースを耳にする度にとてもしんどい気持ちを抱えていました。そして今回も「またか…もうえぇわ」とうんざりした気持ちになったのですが、今回のニュースはいつもと違った点がありました。それは、値上げの理由が「生産能力強化のための投資」であるということ。
調べてみたところ詳細が海外のニュースメディアに掲載されていたので、日本語訳にしたスクショを貼っておきます。(翻訳の関係で文中の”映画”という単語はフィルムのことを指しています。)ソース元のリンクはこちら→https://kosmofoto.com/2019/11/kodak-alaris-raising-film-prices-in-january-2020/
▼ 掲載内容をざっくりと要約するとこんな感じです。
・2021年1月を目処にKodakの各フィルム製品を値上げする。
・値上げの理由は、原材料の高騰及び生産能力強化のための投資。
・この数年でフィルムの需要が世界的に増加。2020年はKodak社のフィルム販売数が最高レベルに達した。
・需要の増加に伴い、生産供給が不安定になる問題が発生。今後見込まれるさらなる需要増を見据えて、生産ラインの強化を開始。継続的な財政投資が必要となり、販売価格の値上げはその一環である。
ニュース記事をさかのぼってみてわかったのですが、Kodak社のこの動きはどうも数年前から始まっていたみたいです。
正直、とても嬉しくなりました。
値上げ自体はあまりプラスな印象ではありませんが、フィルム写真業界のこの十数年を考えればこれはもう良い意味での大ニュースだと思います。あれだけデジタル業界に押されて減り続けてきたフィルム需要が、今この時代になって再び増え始めている。それも生産ラインの供給能力が追いつかなくなるくらいに。
その問題を解決するために、Kodak社は製品の値上げという選択肢も含めて生産ラインの強化に乗り出しているのです。それを決断したKodak社は、本当にすごい企業だと思います。フィルムの値上げはユーザーにとってもお店にとっても経済的負担が大きくはなりますが、この先フィルム文化を継続していくためには必要なことなんだと私は受け止めました。
フィルム製造は、一度止めてしまったら復活がむずかしいと言われています。需要が全盛期だった時代よりもユーザーが減少し、フィルムの銘柄は減り続け販売価格も上昇していきました。「この十数年でフィルム文化はほぼなくなるかもしれない」とまで言われてきました。でも、十数年の低迷期を経て少しずつではありますがフィルム文化の復活の可能性が見えてきています。写真屋としてフィルムユーザーとして、今回のKodak社の値上げを全面的に応援したいと思っています。
フィルムユーザーの皆さま。今回の値上げのニュースを受けて「フィルムやめようかな…」と思われる方も多いかもしれません。でも、もしフィルム写真を撮ることが好きなのであれば、どうかフィルムで写真を撮り続けて頂きたいです。
もちろん経済的な負担は大きくなるのでそれを無理に強要することはできないのですが、日常的に撮り続けることがむずかしいのであれば数ヶ月に1本、1年に1本でも構いません。とにかく、フィルムを使うことをやめないでほしいのです。
私たちフィルムユーザーがフィルムを使うことをやめてしまったら、フィルムの需要はないとみなされてメーカーはフィルムを作ることをやめてしまいます。そうしてフィルム文化の衰退が限界点まで達した時、復活の可能性はほぼなくなってしまうのです。
また、製造メーカーだけに限らず、フィルム写真の文化はたくさんの業種や分野によって成り立っています。フィルムの販売店、現像やデータ化やプリントを担う写真屋さんやプロラボ、フィルムカメラの販売店や修理店、暗室、現像機やフィルムスキャナーの製造会社、そのメンテナンスを行う会社、薬品や印画紙の製造会社、ギャラリー、写真集などを制作する印刷会社、情報発信できるSNSなどなど。これらのどれかが欠けてしまっても、今までのようなフィルム写真の楽しみ方ができなくなります。
この大きなサイクルをできるだけ維持していくためにも、できる範囲内でフィルム写真を撮り続けてほしいというのが写真屋としての私自身の願いです。
フィルムで写真を撮る人ひとりひとりが『フィルム写真の文化』を作る一員なんだと、我々Photolabo hibiは思っています。有名な写真家でなくてもSNSのフォロワー数が少なくても、毎日撮ってもたまにしか撮らなくても、私たち一人ひとりが「フィルムで写真を撮り続けること」その行動そのものに意味があるんです。
ちょっと規模の大きい話になりましたが、私たちがフィルムユーザーの皆さんに望むのはとてもシンプルなことです。好きなものを撮る、自分なりの楽しみ方を探求する、自分のペースで楽しむ。ささやかなことかもしれませんが、このささやかな行動がフィルム文化を続けていく原動力になると信じています。
これからもフィルム写真を楽しみましょう!
Photolabo hibi マツイエツコ